守成円蔵のちいさな世界

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zoom RSS じっとりとした蒸し暑さで。

<<   作成日時 : 2009/07/18 21:01   >>

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…決してそれは、快適な一日とはいいがたい。




回想。学生時代の、キャンパスにて。

4階建て校舎の屋上に、人影がある。フェンスを乗り越えてしゃがんでいる。まあ、春だし、物好きな奴もいるもんだなくらいに思ってそこを通り過ぎて、僕は食堂に飯を食いに行った。

飯を食っていると、救急車のサイレンがしだした。

あ、本当に彼は飛び降りたのか!

飯はしっかり食い終えて(人間、食える時には食っておかなければならない)、現場へ戻ってみた。彼はすでに搬送された後。アスファルトの地面には、血液の池と、脳みそらしき物体がぶちまけられていた。ということは、たぶん死んだのだろう。そのときの、現場の放つ生臭い臭いはなんとなくいまも覚えている。とにかく、ああいう死に方は、綺麗じゃないよ。それに、いらないものを他人に披露してしまうものだし、後始末する人のことも考えて死んで欲しいものだ(誰にも迷惑のかからない死に方があるかどうかわからないけど)。

興味本位で見てしまうものだけど、特に見たとて、プラスにはならないものだ。それでも人は、見てしまうものか。



今日も、歩いていたらすごい勢いで消防車が走っていって。火事かと思ったら違った。自殺志望の男が、ビルの手すりを乗り越えていまにも飛び降りようとしている。警察も大勢来ている。野次馬もかなりの数。みんな、見たくもないものなのに、見たいんだよね。僕も含めて。

唾をやたら吐いている。薬物かな?

しばらく眺めていたけど、やがて男は地上の警官に大声で「警官ひとり来て」と呼びかけた。そして、どうやら煙草を所望しているらしいジャスチャー。かなり間を開けて警官が上にたどりつき、フェンス越しに煙草を一本渡した。火もつけてあげた(安全上のことだろう)。

彼は、最期の一服を終えたら飛び降りるのだろう。

当然、一服の間にはネゴシエーションが行われるに違いない。一服終えても飛んでなければ、おそらく彼は死ねないに違いない。

僕はそこまで見てから現場を離れた。飛び降りるのなら、その場面は敢えてみたくはない。なにも晩飯を進んでまずくする必要はないから。

買い物を終えて元きた道を戻ると、彼はまだ生きていた。相変わらず煙草を吸っていた。時間的にいって、あれは2本目以降の煙草であることは確実だ。ということは、たぶん彼は死なないな。そう思った。

またしばらく観察した。彼は結果的に、自分から柵を越えて死なない方へと戻っていった。

多くの人が興味本位で現場を見守ったが、死ねば死んだで良い話じゃないし、死ななかった今回とて、決して見守っても元気の出るものではない。僕もなんだか見てるだけで消耗して疲れてしまった。

それにしても60も近そうなおっさんも含めて、写メしてる人が結構いるのに驚く。飛び降りかけの男を撮ってそんなに面白いのだろうか?僕ならそんな縁起でもない画像を進んで自分の携帯のメモリに残そうとはとても思わない。

家へもどって、疲労感を覚えながらも僕は身体を動かしたかった。海へ出て、濃厚な潮の香りを嗅いでみたかった。いつもよりもハードなジョギングをして汗を流してみた。うん、俺は生きている。

海からの帰り道に、夕暮れの路地を夏祭りの神輿衆がゆっくりとした歩みで過ぎていった。暗がりの中を、なんともいえない味のある灯りをつけたおみこしがゆく。日本の夏だなあ、と感傷にひたる。そこではもう、あの死にかけていた男のことは、僕の中ではどうでもよくなっていた。こうして、生きていけることがなによりさ。

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